ヒューマンエラー防止に指差呼称
2008/04/01
「人は考えずに行動する」(芳賀繁『失敗のメカニズム』、角川ソフィア文庫、2003年)、その結果、見間違いや思い違いによるエラーが起きます。このエラーを減らす方法に "指差呼称" があります。これは "何もしない" に比べて、エラーを6分の1に減らす効果があります(図1)。
〔図1〕指差し呼称の効果検定実験結果(平成8年(財)鉄道総合技術研究所)
"指差呼称" はもともと鉄道の機関士・運転士が考え出したものだそうです。駅の構内で発車のベルが鳴ると前方後方の安全確認を指差しで行う風景を目にします。
では航空界のエラー防止策はどうでしょう。飛行機に乗ると、離陸直前にその便のチーフから「乗務員はドアモードをオートマチックポジションに変更してください」というアナウンスがあります。目の前で操作を見ていますと、3工程くらいあり、最後に「AUTOMATIC」と書かれたラベルをドアノブに挟み込んでいました。赤いラベルによって、AUTOMATIC中であることが一目瞭然でした。
また離陸前の乗務員さんの動きを観察しますと、荷物の扉が閉まっているか手で触る、テーブルや背もたれを戻しシートベルトの指差し確認、電子機器使用のチェックと慌ただしく過ごしています。優しい笑顔と気配りで乗客は安心して飛行ができるのですから、つくづく笑顔は魔法だなあと感じます。
このように "指差呼称" はあらゆるところで確認の精度を上げるために取り入れられている方法ですが、人間が起こしてしまうエラーを防ぐには次のような根拠があります。
1. 注意の方向付け
人間の意識水準は常に一定していられるわけではありません。車の運転では2時間ごとに休憩をとることを推奨しているように集中できる時間は限られています。脳を上手に使い分け、重要な操作・確認の際には意識的に注意を能動的に向ける必要があるために、指差呼称は有用といわれています。
2. 多重確認の効果と脳の覚醒
指差呼称は、腕と指で確認の対象を指し、見たものを口に出して言い、いった言葉を自分の耳で聞く(図2)。このように腕、指、口、目の筋肉を動かすため、脳の覚醒を促し意識レベルが切り替えられ、確認の精度が上がります(表1)。
〔図2〕
〔表1〕意識レベルの5段階(橋本邦衛)
3. 焦燥反応の防止
いつもは確認するのに忘れてしまう原因には、急いでいた、焦っていたというような焦燥反応があります。これにより、確認と判断を行う前に次の操作や動作を行ってしまいエラーにつながります。
指差呼称は医療の場でも取り入れられている方法ですが、日常の生活においても、外出前の火の元の確認や施錠の確認にも効果があります。習慣づくまで意識的に行ってみましょう。
医療安全管理室 セーフティマネージャー 髙橋静子